パソコンは難しい「パソコンは難しい」と言われて久しいです。これと同様に「(パソコンを普及させるためには)パソコンも家電製品のように簡単に扱えるようにしなければいけない」ともよく言われます。前者については私もその通りだとは思いますが、後者についてはやや違和感をおぼえます(言葉の意味するところが曖昧だからなのかもしれませんが)。今回はパソコンと家電製品の使いやすさについて考えます。 電子レンジ家電製品にもいろいろありますが、私が電子レンジを使ったときの失敗談をお話しします。夕食に冷凍ピザを食べようとしたときのことです。冷凍ピザの説明をろくに読まずに5分という時間だけを確認して、電子レンジにアルミホイルにのせたピザを入れて時間をセットしてスタートボタンを押しました。 ところが火花が散ってすぐに「Error」と表示されて止まってしまいます。2,3度試したところでもう一度冷凍ピザの説明を読みました。そこには「オーブントースターで」と書かれてありました。私は何も考えずにレンジモードであたためようとしていたのでした。 次に私は「オーブン」モードにして時間をセットしてスタートボタンを押しました。ところが5分経過してもピザは冷たいままだったのです。そこで電子レンジを良く見てみると「トースター」と書かれたボタンがありました。ここでようやく「オーブントースターで」というのは「トースターで」ということだとわかり、無事ピザにありつくことができました。 このことをよく考えてみました。私は電子レンジで冷凍ピザを調理するのにこれだけ苦労してしまいました。しかし私は電気製品類の扱いが苦手、というわけではありません。むしろ得意な方だと思っています。しかも電子レンジというのは基本的にはモードを選んで時間をセットするだけで使えるものなのです。まさに「簡単な家電製品」の代表例といえるでしょう。 なぜ私は失敗したのでしょう?原因は私の知識にあるのだと思いました。私は料理や食物に関する知識はかなり乏しく、レンジ、オーブン、トースター(さらにはグリルというボタンまでついていました)という「モード」の違いもまったく分かりません。各モードが何をするものなのか、という基本的な知識がないため状況に応じて自分で判断した使い方ができないのです。 しかし普段から自分で料理をする人(主婦など)はこれらの知識を持っていて、それ故に特に苦労することなく電子レンジを使うことができるのでしょう。 家電製品が簡単な訳つまり家電製品が簡単なのは以下の2つのことが主な理由だと考えられます。(1)単機能に近いため操作が簡単で憶えやすい。 (2)機能に関する基礎知識というべきものをユーザが予め持っている。 パソコンについてこの2つの点はどうなっているでしょうか? (1)何でもできる汎用性がパソコンの最大の利点である。ソフトウエアの追加によってほぼ無限の機能を持つ。 (2)パソコンが動作する仕組みに関する知識に精通しているユーザはかぎられている。 パソコンの汎用性(1)の汎用性について考えてみます。汎用性こそがパソコンを使う目的であって、ユーザそれぞれにあった目的・使い方ができることこそがパソコンの利点であると思います。ところが実際にはメール・WWWブラウジングに年賀状の作成程度といった目的だけにパソコンが使われていることも多いようです。ならば汎用性ゆえの難しさをなくすためにいくつかの機能に絞ったもの(パソコンとは呼べない)を「パソコンの壁」に突き当たるユーザに提供するのも一つの手かもしれません。 ただ汎用性故の難しさについては、Macintoshでの正しく規定・統一されたGUI(それを模倣したWindowsも同様)に見られるようなアプローチによって軽減されているように思えます。逆に家電製品こそ機能が増えたり通常と違う操作を行おうとしたときに、統一的なUIのルールが曖昧なため混乱を生み出しているものが多いようです。 基本知識モデルの構築(2)の知識について考えてみましょう。私が各メーカーのアプローチについてもっとも不満に感じている点がこれです。何かをする以上、それに関する基礎的な知識は持つ必要があると思いますし、その方が結局は憶えないといけない事も少なくてすみます。ユーザにも責任があるのだとは思いますが、極力そういった事を隠して「とにかくボタン一つで」といったことだけを追うのはユーザをなめた態度にみえます。メーカーが想定したシナリオに沿ってユーザが操作している限りは問題になりませんが、ひとたびそれから外れたときに何の知識も持たないユーザは何もできなくなります。実際インターネットで起こるようなことは一企業がコントロールできるものではないのですから。 使いながら無理なく基礎知識を学び、ユーザの頭の中にモデルが作られるようなアプローチをすべきだと思います。少なくともファイルやデータがどこにどのように保存されているのかといったことは、ユーザは知っているべきだと考えます。 「では具体的にはどんなインタフェースにするのか?」と問われれば、まだ考えている途中だとしか答えられませんが...。 大事なことは自動車のことを考えてみてください。自動車の運転やメンテナンスは難しいものです。それでも多くの人が自動車を運転します。それは自動車が本当に便利だからなのだと思います(もちろん単なる娯楽で、という人もいるでしょうが)。ある製品が本当に便利なものであれば、ある程度の勉強をしてでも使おうという人は多いのです。 売りたいがためにパソコンやインターネットを「楽しい、簡単」などとあおるのではなく、本当に人々にとって役に立つ、便利なものにしていくという努力を続けることが大事なのだと思います。それが真に人類に貢献するテクノロジーを生み出すのです。 おわりにこのテーマについては、私なりに相当な時間考えており、また考えがぐるぐる同じところを回ったりしていて、未だに「絶対これ!!」というようなところへは辿り着いていません。このため今回の展開には無理があったかもしれません。「パソコンを簡単に」を目指した結果、PCメーカー各社が辿り着いたものが「ボタン一つでインターネット」という単なる「WWWブラウザ起動ショートカットキー」機能だったという、とても寒い状況が改善されることを願っています。 |
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